あらすじ
しかしそこでも大きなトラウマを抱え、回復しかできない職なのにソロで妖怪討伐しています。しかし出会いよって、自身に足りなかったものを獲得し自信を取り戻せるようになります。
ヒロインのライバル的存在で物語りの最重要人物は白狐少女のアコ様です。
白狐少女や狛犬隊長など和風な異世界である迷宮森(ダンジョンのようなもの)と日常の現世を同時に生きる、シリアス多め、恋愛、ほのぼの日常もあり、青春ローファンタジー。「主テーマは愛^^;」なんです。
■ご都合主義は自分が嫌いなので、できるだけ論理的設定をしています。
■主テーマは33話で回収されます
■第一巻完結済み約13万文字
小説家になろう投稿済み作品です。
ジャンルも異なります、たまたま同じ単語が入っただけで、この作品を書いた後に存在を知りましたが、あちらはエロでこちらは純愛で全く正反対です。

9分間のコンビニデート
第1話 九分間のコンビニデート
「──おはようございます」
多神尊は、コンビニに入り、レジにいた同僚アルバイト神城に向かって言った。
現在の時刻は午後九時四十五分。
この店でのあいさつは、昼夜関係なく、『おはようございます』だった。
24時間営業の仕事場ではこんなものなのだろう。
神城は高生二年生で、シフトは午後十時までだ。
「あっ、おはようございます」
ちょっと、はっとして、それからいつものゆるい笑顔で尊に挨拶を返した。
(今日もかわいいなあ、笑顔見るだけでなんか一日幸せな気分になるんだ)
心の中で尊はニヤつくが、実際の顔には出さない。
年上キャラを演じる冷静に微笑で返した。
本当は家を出る前からドキドキわくわくしている。
一秒でも神城と長く話したくて、シフトの十五分前には店に入るようにしていた。
バックヤードに入り、ロッカーを開ける。
四つほどかかっている制服の名札を確認し、ハンガーごと取り出す。
神城の高校の制服のブレザーもかかってい。
近づくと良い香りがする。
彼女の隣に立った時と同じ、ほのかな洗剤の匂いの混じった香りだ。
コンビニの制服を外し、自分の上着をハンガーにかけてロッカーに戻す。
わざと彼女のブレザーの隣にかける。
コンビニの制服を羽織り、ロッカーの扉の内側についている鏡を見て服装をチェックする。
ロッカーを閉じて、壁に貼ってある言葉を唱える。
「いらっしゃいませ。ありがとうございました。またおこしください。少々お待ち下さい。」
社員にだけ聞こえる程度の声量でいつもの一人朝礼を行う。
これら一連の手順は、わざとのんびり行う。
(今日は店長の日か……)
デスクで発注作業をしている店長は背中を向けたままだ。
その背中に挨拶をすると、店長は「おう」と言って右を軽く上げる。
タイムカードを押し込み勤務開始だ。
八時五十一分が記録されている。
(よし、ベストタイムだ)
十分単位で時給が発生するので、十時からの勤務という事になる。
神城と同じスペースにいられる時間は約九分間だ。
実際はもう少し長くなるが、その最低限の時間の確保できたということで満足だ。
尊にとっては、週二回だけの貴重な時間だ。
もちろん客がレジに来た時は話はできない。
ただこの時間帯は客は少なく、レジに来るお客は殆どいない。
だからこの時間帯レジは、レジは1つしか開けていない。
尊は彼女の横で袋づめや、温め等の補助に入る。
つまり神城と50センチも無い距離に立てるのだ。
この距離は彼女とデートをしている気分にさせてくれる。
わくわくしながらも、冷静を装い彼女の側に立った。
彼女は尊方をむいて、柔らか微笑んだ。
目が合うだけで全身の血の巡りが良くなり、何故かやる気も出てくる。
生活のため仕方なくやっているコンビニバイトでさえ朝まで頑張る気になれる。
だが、最初はからそういう関係だったわけではない。
尊は基本人見知りだったし、女の子に自分から声をかけられるタイプではない。
きっかけは些細なことだった。
神城のレジでの対応ぶりは、賢くとてもしっかりしていた。
だが、直ぐになかなかの天然である事がわかった。
雑誌とドリンクを買っただけのお客さんに「温めますか?」と言ってしまったり。
客は、おにぎりを温めて欲しいつもりで、「それ温めて下さい。」といったのに、ポテトチップをレンジに入れたりする。
あるとき、神城は勤務が終わって店内で買い物をしていた。
その時、お客が店に入ってきて、ドアの自動チャイムがなった。
それに反応して彼女は反射的に「いらっしゃいませ」言ってしまった。
お菓子を物色している制服の女子高生に「いらっしゃいませ」と言われて、入店したお客は当然おどろく。
「すっすみません、間違えました!」
神城は真っ赤になって頭を下げた。
レジでその様子を見ていた尊は、後ろをむいて腹と口を押さえ、必死に笑いをこらえる。
「すみません!」
振り返ると、神城が口を尖らて立っていた。
「なによそれ、全然隠せてない。完全に笑ってるでしょ!」
「いやごめん、神城さんってホント見ていて楽しいよね。……だけど、あははははっ、涙出そうになるからもう勘弁して!」
「うーん、もういじわる!」
(やったーラッキ!)
そう言った彼女の少し膨らんだ赤いほっぺがなんとも愛おしい。
「ごめんごめん。それ、俺も時々言いそうになる事があるから」
「でょー!私これでもう五回目ぐらい。他のコンビニでやっちゃった時はすっごい恥ずかしかった」
「…ごめん、それはないわ」
「ふんだ!」
再び神城は口を尖らる。
(怒った顔もほんと可愛いよなあ。わざと怒らせたくなったちゃうじゃん。でもそれじゃ小学生だよな……でもよかった、初めて業務連絡以外の会話ができた!)
そんな事があってから彼女は打ち解けてくれた。
それまで、定刻になると神城は「お疲れ様でした」と感情のない声で告げ、直ぐにバックヤードに戻っていた。
だがそれ以来、打ち解けて色々な話をするようになった。
気が付くと、勤務時間をオーバーしているのが普通になった。
今日も神城は、九時七分過ぎに店内の時計に気づいて、「あっ、早く上がらなくちゃ」と言って、慌ててバックヤードに戻っていった。
その時神城は、ちょっと残念そうな笑みをみせる。
(それってもっと話したかったって顔だよね。なんかキュンとしちゃうんだよなあ、たまんない。)
神城は着替え終わってバックヤードから出くると、いつもトイレに行く。
コンビニの制服の下は高校の制服だ。
帰宅して30分ほどしか猶予がないらしく、たいてい制服のままバイトに来る。
神城は、トイレから出ると、店内を見回す。
その時、店内には客が二人だけだった。
木曜のこの時間帯はだいたいそんなものだった。
一人の客がレジに向かい、尊が対応する。
神城はデザート売り場に言って、期間限定のマロングラッセスペシャルを手に取る。
にんまりとしたその横顔をみていると、可愛らしくてこっちも嬉しくなる。
(やばいやばい、またニヤけちまった)
神城は一仕事した後、家でデザートを食べるのが至福の時だそうだ。
もう一人の客は、雑誌を読んでいる。
尊がお客におつりを渡し「ありがとうございました」と行ったのを確認して、神城はレジに向かう。
(彼女がレジに着たら今日こそ誘うぞ!)
ここ一月ぐらい、いつもバイトに来る前はそう決意して来ている。
しかし、いつも結局言い出すことはできない。
最近の神城の態度からすると、映画ぐらいなら、一緒に行ってくれそうな気がする。
しかし、振られ時の事を想像すると不安になる。
振られて気まずくなるようだったら、シフトの曜日を変更すれいいとも思う。
だが、この時間を失ってしまったら何の楽しみも無くなると思うと勇気がでない。
大げさに聞こえるだろうが、日々の生活の中で、唯一の生きがだったのだ。
しかし言い出せない最大の理由はほかにある。
社会的地位だ。
神城は県内でも有名なエリート高校に通っている。
小学校から大学までエスカレート式の一流校だ。
つまり有名一流大学に入ることがほぼすでに決まっている。
だが尊は進学どころか高校二年に進級すらできず、中退の身だ。
祖父は医者だったが、父は婿養子でラーメン店を経営してたた。
だが小学校三年の時に倒産し行方不明になった。
祖父の援助で母と弟で暮らしていたが、母の期待は尊に注がれた。
母は尊を医者にするために、小学校四年の時から家庭教師をつけた。
中学では、さらに塾を二つ掛け持ちさせた。
「貴方は医者になって、おじいちゃんの後を継ぐのよ!」
いつもそう言って尊の尻を叩く強烈な教育ままだった。
母の妹、つまり叔母は医者と結婚して、祖父の病院で副院長をしていた。
妹一家との差に嫉妬していて、どうしても自分の子を医者にしたかったのだ。
尊は母の言われるままに必死にガリ勉して、ギリギリ進学校といわれている高校に入った。
だが、勉強量だけでなんとかなるのはそこが限界だった。
物理も数学も一学期から赤点だった。
高校入学祝いに手に入れたPCで春休みからMMOを始めたのもまずかった。
ガリ勉で友達も作れなかった現実世界と違い、直ぐに友達が沢山できたのだ。
学校が始まるころには、オフ会などもあり、それまで無かった同じ趣味の仲間と交わることができた。
年齢は幅広く交流することができるようになり、多少はコミニケーション能力をつけられたのが唯一のメリットだったといえる。
しかし、やがて学校にも行かなくなり、勉強もしないからテストは最下位だった。
出席日数はなんとかクリアしたが、赤点だらけでとうとう留年か退学の選択を迫られた。
とうとう母親もキレて、尊は見捨てられた。
その対象は弟の方に移ったのだ。
あとは自分で生活しろと家を追い出され、祖父の持つアパート暮らしになった。
家賃は無料にしてもらえたが、生活資金の援助は一切無しだった。
だから、生活費を稼ぐために就職した。
しかし、高校中退、つまり中卒なのでろくな仕事はない。
土木作業や交通整理員は続かなかった。
訪問販売の営業や工場の期間従業員なども続かず、3カ月も持たなかった。
今は週三で、コンビニ店員をして生活している。
そして神城はそれを知らない。
一応通っていた高校は、県内上位に入る進学高校ではあったから、高校名だけは教えた。
彼女に「どこの高校?」と聞かれ、嘘もつけなかったので正直に言ったのだ。
しかし中退していることは隠し、浪人中だと言ってある。
今後彼女が大学に入れば、その社会的位置は、尊とは歴然と差がつく。
うすうすとは分かっていたものの、社会に出て、学歴というレッテルの大きさを改めて実感した。
中学で常に学年十位以内なんて実績は、中卒という肩書きではなんの役にも立たない。
ただただ中卒の「頭の悪い奴」という扱いでこき使われるだけだった。
たぶんこのまま一生そんなんだと思うと、自分が最低の底辺にいる惨めな気分になる。
だから万一彼女と付き合えるようになったしても、破綻は目に見えていると思った。
だったら、初めから付き合うべきじゃない。
彼女が真実を知ったときの反応を想像すると恐ろしくてたまらない。
だから、デートに誘うことさえ躊躇してしまう。
いつものように同道巡りの思考をしていると、神城がレジにやってきた。
「これ食べたことある?」
レジカウンターに期間限定のマロングラッセスペシャルをおいた。
「いや、ないけど、ちょっと気にはなってた」
尊はあまり栗が好きではないが、そう返答した。
「だよね!じゃあ今度感想聞かせてあげるね!」
神城は、キラキラと目を輝かせてとてもうれしそうに言った。
財布からお金を出ながら、カウンター前に置かれた、今売り出し中のアニメ、『回復術師のソロプレイ!劇場版』のポップを指さした。
「これ、私見たいと思ってるんだ」
「そうなんだね、じゃあ……」
尊はとっさに出そうになった言葉を飲み込んだ。
無意識に『じゃあ一緒に行かない?』と言いそうになったのだ。
「じゃあ?」
神城はその続きの言葉を催促した。
「えっと、そうだね、じゃ、じゃあ、人気あるみたいだから、早めに前売り買ったほうがいいかな。特典付きは前売限定みたいだし…」
なんとかごまかそうと言葉を絞り出した。
「そっそうね……。でも一緒に行ってくれそうな人がいなくて、やっぱり、ぼっちアニメはちょっと寂しいから」
神城は、本心とも、誘いを促すともとれるような言い方をした。
(えっ、もしかして誘って欲しいのか?いやいやいや、そんなわけないか――)
「そっそっか。誰か見つかるといいね」
(くそっ、俺の意気地なし!――)
神城は肩を落としたようにみえ、それまでの笑顔を閉じた。
うつむいたまま、「うん」と言って、いつもなら、「じゃあまたね」という言葉さえ無く店を出ていった。
(やっぱり、誘ってほしいかったのか?俺に好意あるの?いや、ほんとに行く相手がいないだけだよな。超エリート進学校だからアニメ好きとかそうはいなさそうだしな……)
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